絵の具が手や足から離れない生活がまた続いた。
描いても描いても描くことが終わらない。
髪の毛は太陽に焼けて傷んで、足は蚊に刺された跡と脚立にぶつけた跡ばかり。
寝不足や疲れもたまって、思考は止まる。
ただ、ただ、夢中に描く日々。
夜は、大抵次の日を迎えるまで。最近は平均睡眠4時間半程度で描いていた。
すべてが絵の具に染まっていく。
手も洗わずにコンビニで買い物。
血管みたいに手を流れる黒い絵の具に、店員さんがびくっとした。
絵の具は、服よりも近くに感じる物質。
絵の具という物質が、身体という物質を通して、私という存在と重なって、
ここにいなさいと私に言う。
形あるものは空。空は形あるもの。
形あるものが意味するのは空であり、空が意味するものは形あるものである。
私の匂いのように、私の色になって、私を訴える。
私の色。私の肌。 私の存在。
手には、マニキュアや指輪はしない。
夜に1人、絵の前で、絵の具を足の爪に塗った。
最初は、どんなものでも、泣きそうになるほどできなくて、不安になる。
模倣しなければ当たり前のことだ。
できなくで、少し気がゆるむと本当に泣いているくらい落ちる。
でも、最後はいつもいいものになる。
いいものになると信じて立ち向かう。
これは、私との戦い。
私には負けない。負けちゃいけない。
最近、本棚と本を描きまくった。
本を描き続けて寝れずに生きるか、夢の中で本に潰されて死ぬか、
どっちかだ。と思った。
描かないで生きると言う選択は、私にはないと思った。
生きるか死ぬか。
それは、死を感じないと、生を感じない。
ということ。
苦労をしないと努力をしないと、本当には笑えない
ということ。
そういう生き方をしていたい。
最近絵を買ってくれた人に
越さんは自分を一言で表すとどんな人ですか。
と、聞かれた。
孤独な人だと思います。
と答えた。
月の光を浴びて、赤いワインを飲む。
髪は狼の尾。